記載医師 若月 優
転移の有無は、がん診療において予後を規定する重要な因子です。従来は、転移性腫瘍が発見された時点で、画像検査で確認できる病巣以外に、微視的な病変(画像では確認できないミクロの転移)も存在することが必然と考えられ、局所療法は適応とされていませんでした。しかし、「がんが全身に転移する前に、少数個の転移のみが存在する状態」という、いわゆる「オリゴ転移」の概念※1,※2が提唱され、転移性腫瘍に対する局所療法の意義が徐々に認識されるようになりました。転移性肺腫瘍あるいは転移性肝腫瘍を伴う大腸がんの場合に、原発巣に加えて転移巣も切除する例が好例と言えるでしょう。このような転移で有りながら治癒を目的とした治療の対象となるオリゴ転移に対しては、重粒子線治療でも高い有用性が報告されています。
転移性腫瘍への重粒子線治療が先進医療として行われているのは、以下の場合です。
| 疾患名 | 適応 | |
|---|---|---|
| 1 | 転移性肺腫瘍 | 少数転移性肺腫瘍(oligometastatic,3個以下) | 2 | 転移性肝腫瘍 | 少数転移性肝腫瘍(oligometastatic,3個以下) | 3 | 転移性リンパ節 | 少数リンパ節転移(oligometastatic,一つの領域) |
転移性肺腫瘍に対する重粒子線治療の適応は、原発のがんの種類に拘わらず、転移病巣が3個以内であり、原発巣を含めて他に明らかな病巣がない(原発巣は治療後である)ことが必要条件になります。
X線の定位照射等に比べて照射範囲に含まれる肺の体積を小さくできるため肺障害のリスクが小さく、低肺機能や多発転移の照射でも実施可能です。加えて、大腸がんや腎がん、甲状腺がんなどの放射線抵抗性腫瘍の肺転移に対しても有効性が期待できます。
重粒子線治療を行った転移性肺腫瘍91例116病巣について成績を評価した結果、2年生存率71%、局所制御率92%と良好な結果が得られたと報告されています。これらの症例では3度以上の副作用は認められず、安全性についても良好な結果が得られました※3。先進医療として実施した結果をまとめた多施設後向き研究でも、計110例129病巣の治療成績として重粒子線治療後3年の局所制御率、全生存率は、それぞれ79.5%、70.5%と良好な結果でした。
転移性肝腫瘍に対する重粒子線治療の適応は、原発のがんの種類に拘わらず、転移病巣が3個以内であり、原発巣を含めて他に明らかな病巣がない(原発巣は治療後である)ことが必要条件になります。
転移性肝腫瘍に対しても粒子線治療は腫瘍とその周囲に限局した照射が可能なことから副作用発生の危険性についてX線治療に優ると考えられ、さらに原発腫瘍や病理組織の種類によっては殺傷効果の点でもより優れていると考えられます。
先進医療として実施した結果をまとめた多施設後向き研究で重粒子線治療を行った転移性肝腫瘍102例121病巣について成績を評価した結果、2年生存率73%、局所制御率78%と良好な結果が得られたと報告されています。これらの症例では3度以上の副作用は認められず、安全性についても良好な結果が得られました※4。原発巣別の2年生存率・2年局所制御率は、大腸がん87%・74%、胆管がん54%・63%、膵がん38%・100%、その他65%・100%と報告されています※4。QST病院では1回ないし4回という短期間の重粒子線治療が実施できています。
※Shiba S et al. Cancer Sci. 2023 Sep;114(9):3679-3686. doi: 10.1111/cas.15871. Epub 2023 Jun 30
転移性リンパ節への局所治療においては、原発巣の再発がないことが前提です。
複数のリンパ節転移が癒合している場合、その個数が数えにくいことはありますが、狭い領域に限局している病態を重粒子線治療の対象としています。治療対象のリンパ節以外に活動性のがん病巣がないことが条件です。
リンパ節転移の治療では周辺に消化管をはじめとする副作用のリスクの高い臓器が存在することが多いため、X線では十分な線量が照射できないことが少なくないのですが、線量を集中させることのできる重粒子線治療ではそのような場合でも多くの場合に治療可能です。
転移性リンパ節に対する当院での重粒子線治療の成績に関して、大腸がんの傍大動脈リンパ節転移に対する重粒子線治療では、3年局所制御率70%、3年全生存率63%という結果が得られています※5。食道がん術後の転移性リンパ節再発に対する重粒子線治療では、3年局所制御率92%、3年全生存率58%という結果が得られています※6。婦人科腫瘍における放射線治療後のリンパ節再発に対する重粒子線治療では、3年局所制御率94%、3年全生存率74%という結果が得られています※7。これらの解析において、Grade3以上の晩期有害事象は認められませんでした。
これらの結果を受けて、複数の重粒子線治療施設における、転移性リンパ節に対する重粒子線治療の成績を解析しました。計323例の治療成績として重粒子線治療後2年の局所制御率、全生存率は、それぞれ85%、63%と良好な結果が得られています※8。この解析では、非扁平上皮がん、30 mm以上の転移リンパ節、再照射症例など、従来の放射線治療では治療が困難とされる病態においても、良好な局所制御が得られていました。さらに、Grade3以上の晩期有害事象は、1例のみ(0.31%)でした。
以上のように、重粒子線治療の高い生物学的効果と、優れた線量集中性により、転移性腫瘍に対しても良好な成績が挙げられています。
お困りの症例がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
※1 Hellman S, Weichselbaum.: J Clin Oncol 1995;13(1):8–10.
※2 Niibe Y, Hayakawa K.: Jpn J Clin Oncol. 2010;40:107–111.
※3 Yamamoto N, Nakajima M. Pulm Med. 2013.
※4 ※Shiba S et al. Cancer Sci. 2023 Sep;114(9):3679-3686. doi: 10.1111/cas.15871. Epub 2023 Jun 30
※5 Isozaki Y, et al.: J Surg Oncol. 2017;116(7):932-938.
※6 Isozaki Y, et al.: Anticancer Res. 2018;38(11):6453-6458.
※7 Shiba S, et al.: Anticancer Res. 2017;37(10):5577-5583.
※8 Okonogi N, et al.: Int J Clin Oncol. 2019. doi: 10.1007/s10147-019-01440-y.